「彼氏いるの?」への上手な返答をマジメに考えてみた。
報酬から引かれる雑費の多さが気になるところではあったけれども、総合的に見ればとても居心地のいいお店であったので、本入店する段取りを取った。
よろしくお願いしますと頭を下げ、このお店にしばらく腰を据える心づもりであったのだ。
それにもかかわらず、わたしは本入店することができなかった。
さて、それはなぜでしょうか?
正解:酒に飲まれた。
体験入店の際に、黒服さんがお店の説明と合わせて何度も言っていたのは、こんな言葉。
「指名数ノルマの罰金は、その子が頑張ってくれてるのが分かれば、取らないんですよ。ハッパかけるために壁に貼り出してるだけで。」
「だけど、遅刻や無断欠勤だけは、本当に注意してます。」
「そこだけ、お願いしますね。」
もちろんですよ!という気持ちで、本入店後の出勤希望日を提出して帰路についた。
さて、いよいよ完全なる出戻りだぜ、カサイさん。
今日は頑張ったし、お金も入ったし、久しぶりに飲みに行っちゃおう!
…これが最大の過ちだったのである。
わたしは、お酒の失敗をよくしでかす。
アルコールに弱い体質のくせに、お酒を飲むことが大好きだ。
まるで必然かのように、何度も同じ失敗をする人間なのである。
浮き足立って飲みに出かけた結果、泥酔をした。
知らぬ間に意識を失っており、次に意識を取り戻したのは翌日の20時。
なんてこった、今日は本入店初日ではないか。
お店に到着するべき約束の時間は、20時半。
加えて、猛烈に具合が悪い。
あかん…。もう無理だ…。
現実逃避の、甘美さよ。
手近なところにあるすべての物事を諦めたわたしは、携帯電話の電源をオフにして現実逃避をすることにした。
襲いかかってくる睡魔に従う姿勢を取り、今日の予定を諦めることにしたのであった。
それはすなわち、わざわざ時間と手間と意気込みをかけてゲットした池袋P店への本入店の資格を捨てたということ。
壮大な雰囲気で語ってみたけれども、つまるところ、本入店初日をバックレたということである。
結果、非常に死にたくなった。
二日酔いのつらさと、本入店できなくなった絶望感と、お店に迷惑をかけたという罪悪感から、「もう死んだ方がいいのではないかスパイラル」に巻かれてしまったわたしは、そのまま2日ほど昏睡していた。
2日経過してなんとか体が動くようになったところで、やっちまった感に苦しみながらも、これからどうすれば良いものかと改めて考えてみることにした。
やってしまったので、謝るしかないよね。
だけど引っかかっているのは、黒服さんのあの言葉。
「遅刻や無断欠勤だけは(だけはーだけはーだけはー…)しないでくださいね(さいねーさいねーさいねー…)」
脳内で思い返す黒服さんの言葉に、ムダにエコーがかかる。
わたしの脳内には、どうやら凄腕の音響技師が棲んでいるようだ。
そんなことは、どうでもいい。超どうでもいい。
ああもう、本当申し訳ない。どうしよう。
謝りたい気持ちでいっぱいだ。
もう本入店できなくてもいいから、とりあえず謝ってしまいたい…。
けどそれって自己満足でしかないし、ほぼ他人であるわたしなんぞの言葉なんて、黒服さんには響かないかも知れない…。
考えに考えた末、わたしは完全にバックレることにした。
罪悪感から逃げ、面倒ごとから逃げ、出戻りそのものを上書きするべく次のお店を探すことにしたのであった。
我ながら、しょうもない限りである
文|カサイユウ(ライター・元風俗嬢)
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